パスウェイズ・ジャパンでは、今年、シリア・アフガニスタン・ウクライナから合計22名の学生を受け入れました。(日本語学校パスウェイズ17名、大学パスウェイズ5名)来日して3ヶ月、彼らは日本語学校や大学での学びに励む一方で、アルバイトを通じて日本での新しい生活を切り開いています。今回は、そんな学生たちの新しい挑戦を紹介します。
日本で自立した生活を実現するためのパスウェイズ・ジャパンの受け入れモデル
パスウェイズ・ジャパンでは、学生が日 本で自立した生活を築いていけるよう 、来日前から受け入れ教育機関の卒業まで、一貫した支援を行っています。
選考
日本社会で自立していくためには、日本語の習得が欠かせないことから、日本語学習経験があるか、学習経験が乏しくとも日本語習得への意欲が高いかも加味して、選考しています。昨年の選考時には日本国外から1,000名を超える応募が集まり、書類と面接による選考の結果、日本に高い関心を持ち、日本での生活に意欲がある学生が選ばれました。
また、2年間のプログラム期間中、生活費の支援は生活の初期段階のみで、その後は学業と並行してアルバイトをし自活していく形となることを丁寧に説明し、合意をとっています。
事前説明/来日前準備
選考後は、来日に向けた在留資格の手続きを進めると共に、オンラインと合宿形式で日本語授業を実施しました。来日前の約4ヶ月間の中で、日本での生活を立ち上げられるよう、日本語力を向上させていきました。
*来日前の日本語教育についてはこちら
来日後オリエンテーション
来日直後は、集中的に3日間のオリエンテーションを行います。生活や文化、キャリア形成、メンタルヘルス、災害への備え、ジェンダーに基づく事件への備えなど難民の背景を持つ学生が今後日本で生活するために必要な情報を提供し、アルバイト探しについても、求人情報の探し方から面接までの流れを説明し、さっそく、履歴書の書き方や面接の実技演習も行いました。
*今年のオリエンテーションの模様はこちら
個々の状況に合わせたアルバイト探しの道のり
オリエンテーションを終え、各自が通う日本語学校・大学の地域に移動後、住居探しや住民票登録、銀行口座開設等の手続きを進め、アルバイト探しに取り組みました。新しい国での仕事探しは、情報の探し方から選考方法まで学生たちがそれまで経験していたものとは大きく異なり、なかなか仕事が見つからず、葛藤する学生もいます。主に首都圏の日本語学校に通う学生に対しては、パスウェイズ・ジャパンのスタッフが寄り添いながら、個々人の状況に合わせてアルバイト先が見つけられるようサポートしていきました。その他仙台・京都・岡山等の学校では、日本語学校の職員の方々がサポートにあたってくださっており、さらに沖縄では、地域コミュニティの方が寄り添い、アルバイト探しをサポートしてくださいました。
日本語学校に在籍する17名のうち12名は来日3ヶ月以内でアルバイトを見つけることができました。残り5名は、日本語学校の授業や母国の大学でのオンライン授業の合間の時間を見つけながら、アルバイト探しを継続しています。
選考後に日本語を学習し始めた学生たちは、初級の日本語力を身につけてはいるものの、面接前の連絡など実践的なコミュニケーションに苦労し、面接にたどり着くまで難しい時がありました。先輩学生や日本語学校からの情報なども活用しながら、レストランのバックヤード(2名)やホテルでのベットメイキング(2名)、店舗の展示品の清掃(1名)など、外国人の就労に理解がある職場で、高い日本語力が求められない仕事からスタートしました。
また、日本語力を一定程度身につけた学生は、レストランのホールスタッフ(3名)や小売店のレジ打ち(2名)など、さっそく日本語力を活かして接客をするポジションで採用されました。他に、語学力を活かして、英語教師(2名)をしている人もいます。
シリア、アフガニスタン、ウクライナの学生の声
<シリア出身・ハーシムさん>
東京の日本語学校に在籍し、洋菓子店でレジ打ちの仕事をしています。プログラムへの応募を決めた時から自身で日本語を学習し、プログラムへの採用が決まった後は、パスウェイズ・ジャパンが提供するトルコでの日本語の合宿やオンライン授業で日本語力を向上させました。アルバイトを見つけるため、先輩学生や日本語学校からの情報だけでなく、自分で街を歩きながら積極的に探し、洋菓子店での仕事を得ることができました。
「渋谷でアルバイトを見つけ、優しい店長が私の限られた日本語能力にもかかわらず雇ってくれました。そこで働くことで、言語能力が向上し、素晴らしい日本の友達にも出会うことができました。渋谷の混雑したエリアでの仕事は簡単ではありませんが、アラビア語、英語、トルコ語、日本語を話し、多くの国籍の人々に対応しています。多様な言語でお客様と話すことで、仕事が楽しくなっています。」
*ハーシムさんが日本にくることを決めた理由や今後の目標はこちらをご覧ください。
<アフガニスタン出身・ザーラーさん>
沖縄の日本語学校に在籍しており、地域のボランティアの方のサポートのもとアルバイト探しを進め、最終的には自分で見つけてアプローチしたコンビニエンスストアで採用されました。選考時点では、日本語学習の経験はありませんでしたが、来日前の4ヶ月間オンラインで学習し、来日後も日本語学校や地域の方との交流の中で日本語力を伸長させました。来日2ヶ月後から、接客を含むレジ打ちの業務を担当しています。
「日本語がN5レベルの人間にとっては、決して楽な仕事ではありません。生活費を稼ぐためには働かなければなりませんし、私もそのために働いています。簡単ではありませんし、楽しいことばかりではありません。でも、店長は本当にいい人で、サポートしてくれます。」
<ウクライナ出身・ダリナさん>
東京の日本語学校に在籍し、レストランのホールスタッフをしています。幼い頃からアニメや音楽をきっかけに日本に興味をもち、12歳から家庭教師と日本語を勉強していた経験があります。在籍する日本語学校のサポートをうけてアルバイト先を見つけ、日本語力を活かして働いています。
「ホテルのレストランでホールスタッフでアルバイトもしています。そこは本当にいいところです。皆とても優しいです。色々な日本人とよく話しますから、日本語の会話力も上達しています。」
アルバイトの経験が日本でのキャリアの一歩に
アルバイトは、収入を得るという経済的なメリットだけでなく、日本でのキャリアを築く第一歩にもなります。難民・避難民の学生の中には、元々住んでいた国で自身の専門性やスキルを活かして仕事をしていた経験がある人もいます。支援に頼るだけでなく、日本で仕事を見つけ自活することで、自尊心を持って生活できるようになります。
アルバイトを通じて、日本語のコミュニケーション力を高め、日本の仕事文化や習慣を理解することができます。多くの学生は大学や日本語学校を卒業後、就職を目指します。アルバイトで実践的な日本語力を身につけ、日本の仕事文化を学ぶことは、新しい環境でのキャリア形成に役立ちます。就職活動の際には、日本で働く具体的なイメージを持って求人を探し、選考の過程でも日本での仕事経験を活かすことで、採用のチャンスを高めることができます。
パスウェイズ・ジャパンでは、これまでに71名がプログラムを卒業・修了し、すでに卒業生の約3割が就職しています。また、大学・大学院・専門学校に在籍している残りの学生も、今後日本で就職していくことが期待されています。これまでの卒業生が就職を実現できたのも、来日当初からアルバイトの経験を積み、日本語力を向上させ、日本で働く経験を蓄積してきたことが活きています。
このように、パスウェイズ・ジャパンの受け入れモデルは、来日前から日本での自活に必要な情報を提供し、来日後すぐにアルバイトを開始できるようサポートすることで、日本語学校や大学でのプログラムを修了した学生たちが社会で活躍することを目指しています。このモデルにより、若者と受け入れ社会の双方にとってWin-Winとなる受け入れを築くことにつながっていきます。
次回は、アルバイトの経験を持った学生たちが臨む就活に向けた取り組みをご紹介します。