難民の背景をもつ方々の高等教育への進学率は7%と低く、国際社会ではグローバル難民フォーラムにて、「2030年までに難民の高等教育進学率を15%」に上げることを目標に掲げ、各国で取り組みが進められています。「渡邉利三国際奨学金」は、難民の背景を持つ若者達が、高等教育を受ける機会を得ることで日本社会で活躍し、引いては 日本社会を多様な人財が活躍できる国に変える原動力となることを願う、寄付者の渡邉利三氏の強い意志に基づいて、設立されました。この度、2025年度の奨学金授与式を4月19日に都内で開催し、奨学生やその家族・友人、支援者等約30名が集い、奨学生一人ひとりの挑戦と未来への歩みを祝しましたので、以下にご報告します。


本奨学金は、これまで奨学金応募の機会が限られていた期間限定の在留資格の人々を主な対象にした、学費と生活費の両方を支援する返済不要のフルスカラーシップです。日本国内の短大から大学学部、大学院までいずれの教育機関でも支援が可能で、難民の背景を持つ若者達が、様々な専門分野を選択し、学習・研究することが可能となります。
2025年度より、政府による「補完的保護制度」の導入により、2025年度募集からは、新たに定住者の在留資格を持つ人も応募が可能となりました。
本年度は61名の応募者があり、学識経験者等で構成された選考委員会による審査を経て、21名の奨学生が選ばれました。奨学生の出身国は、昨年度までのシリア、アフガニスタン、ミャンマー、トルコ(クルド)に加えて、本年度より新たにウクライナ、カメルーンの6か国に広がり、奨学生の背景は多様化しています。また、女性が11名と初めて過半数となり、ジェンダーの観点からも高等教育の機会拡大に貢献しています。
*渡邉利三国際奨学金の概要はこちらをご覧ください。
*募集結果と報告についてはこちらをご覧ください。
授与式の当日は、各奨学生がこれまでの経験と今後の抱負についてスピーチを行いました。母国で大学に通いながら政変により教育を受け続けることが難しくなり日本に逃れて来た方、戦禍の祖国を逃れて来た方、親が留学生として来日した後に帰国できなくなり日本で生まれ育った方など、難民の状況となった背景は様々です。
しかし、すべての奨学生が、戦争や政治的抑圧など様々な困難に直面しながらも、教育を受けることを希求しており、スピーチの中では、日本の大学・大学院への進学を通じて何を学び、日本社会と将来の母国にどのように貢献したいかを具体的に話してくれました。
前年度からの継続支援が決まった奨学生からは、近況報告として、自身の専攻分野でのインターンシップの経験や海外での学会発表など、学内外での学びや研究を通じて自身の目標に向かっている様子が共有されました。就職を控える学生も多く、自身の学びを深め、次のステップに進む準備をこれから1年間で行なっていきます。



*学生のスピーチはこちらをご覧ください
本授賞式には、奨学金の設立にあたり寛大なご寄付をいただいた渡邉利三氏も出席され、奨学金設立に至ったご自身の経験や思いを奨学生にお話いただきました。最後には「Build your dream, and the dream will build you! あなたの夢を築き上げてください。そうすれば、その夢があなたを育て上げてくれます。頑張ってください」と奨学生にエールを送られました。
また、元文部科学大臣の中川正春先生にもご参加いただきました。中川先生からは、「和して同ぜずという言葉がありますが、皆さんは自身のアイデンティティ、母国のアイデンティティを持ちながら、日本社会でHarmonize(調和)していってほしいと思います。それが日本社会を強くすることにもなると思います。頑張ってください」との励ましの言葉をいただきました。


懇親会では、国籍を超えて奨学生同士が交流を深め、新たなつながりが生まれました。奨学生はいずれも、様々な困難を乗り越えて教育の機会を手にしており、大学での教育を通じて自身の力を伸ばし、それぞれの分野で日本社会、そして国際社会への貢献を果たす強い意志と高い志を持っています。このような奨学生同士のネットワークも、今後目標に向かって歩む上で大きな支えとなるといえます。
パスウェイズ・ジャパンでは今後も、奨学生達が学びと研究を深め、自らの目標に向かって進み、成長していく道のりを伴走していきます。