退路を絶って選んだ日本への道-チャレンジできるのは社会が平和だから
(シリア/アブダッラさん)
2011年に勃発したシリア紛争で故郷を離れたのは 11 歳の時でした。その後、イエメン、サウジアラビア、トルコを経て、19 歳で単身来日しました。日本に来て 4 年。最初は苦労しましたが、やっと、ここに根を張り、安心して暮らせるようになってきました。今は、大学で情報電子工学を学んでいます。戦争で負った心の傷は簡単には癒えないですが、難民となる経験をしたことで自分は成長できました。自分の力を生かして社会でチャレンジできるのは、社会が平和だから。平和な時間は貴重なもの。だから、その時間を大切に生きたいし、そう生きることは、平和な社会で生まれた者の責任だとも感じています。
パスウェイズ・ジャパンでは、「誰もが自身の力で未来を切り拓ける世界」をヴィジョンに、難民となる経験をしたシリア、アフガニスタン、ウクライナの若者に日本で学ぶ機会を提供しています。難民として母国を離れざるをえなくなった若者たちは、母国で打ち砕かれた未来への希望を日本への道に託し、日本で日本語や専門分野の学びを深め、自立し、社会に貢献することを目指します。逆境を乗り越え、新しい土地で人生を切り拓く難民の学生は、共に学ぶ学生、就職先となる企業、そして広く日本社会全体にも新しい道を示してくれます。
紛争、迫害、暴力、人権侵害により世界の難民の数は過去最多を更新
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した「グローバル・トレンズ・レポート2023」によると、2024年5月には、紛争、迫害、暴力、人権侵害により避難を余儀なくされた人は、日本の人口に匹敵する1億2000万人にのぼりました。
難民の状況に置かれた若者は、それまで持っていた夢や希望を失います。日本での学びの機会は、途絶えた夢や生きる希望を回復する機会にもなります。
シリア
2011年から10年以上にわたり内戦状態が続き、難民の人数は世界最多の640万人に上ります。73%がトルコ、レバノン、ヨルダンの周辺国に逃れていますが、いずれの国でも法的な地位が保証されず、不安定な状態に置かれています。
子どもの頃から日本に行きたいと思っていましたが、シリアの戦争により、トルコへ逃れなければならなくなりました。その後、トルコでは、シリア人に対する差別が始まり、生活は日に日に悪化していきました。パスウェイズ・ジャパンのプログラムを知り、自分の夢を追いかけることを願って応募しました。(2023年来日 マイサムさん)
アフガニスタン
2021年からタリバンが政権を掌握する政治的な混乱から、難民の人数は増加し続け、2023年には13%増の約640万人に達しました。特に、タリバンの政策により、女性の高等教育・就業の権利が制限され、将来の道を絶たれた女性は国外に逃れる機会を強く望んでいます。
アフガニスタンで前政権が崩壊した後、女性は就労や教育が禁止されました。私は仕事を失い、通っていた大学院修士課程も諦めざるを得なくなりました。そして、パスウェイズのプログラムに参加して祖国の状況から逃れることを決意しました。(2022年来日 ヴァズィリさん)
ウクライナ
2022年2月のロシアの侵攻による人道危機の終わりが見えない中、国外に逃れる人は2023年になっても増加しており、2023年末には約600万人となりました。
ロシアによる爆撃で私の生活は一変しました。当時は首都キーウ大学で日本語を学んでいました。日本語教師になることが夢でした。日々戦況が変わる中で、将来への不安ばかりが募りました。日本語ができて何の意味があるのかと悩みました。でも、日本に来て、夢を取り戻すことができました。(2022年来日 リリアさん)
難民危機に対する新たなアプローチ
民間主導による受け入れ「教育パスウェイズ」
紛争や人権侵害により難民となる人々が増え続け、各国政府や国連だけでは十分な対応ができない状況が恒常的になる中、民間が主導する受け入れを行う動きが拡大してきました。そして、国連総会で 2018 年に「難民に関するグローバル・コンパクト」が採択されて以降、政府による再定住プログラムを補完する道筋として民間主導による受け入れが推奨されるようになりました。2023年12月に、政府・国際機関・市民社会が一堂に会する世界最大の難民支援の国際会議「第2回グローバル難民フォーラム」が開かれ、日本が共同議長国を務めましたが、その会議の中でも、教育パスウェイズの取り組みが話し合われました。
*グローバル難民フォーラムについてはこちらをご覧ください。
このような世界的な潮流の中、パスウェイズ・ジャパンでは、2017年から日本語学校及び大学という教育機関と協働して難民を日本に受け入れる取り組みを進めてきました。2年間日本語学校で学んで進学または就職を目指す「日本語学校パスウェイズ」と日本語教育及び高等教育を提供する大学で学ぶ「大学パスウェイズ」の2つのプログラムを実施しています。シリアの学生の受け入れから始まり、2021年からはアフガニスタン出身者、2022年からはウクライナ出身者にも広がり、2017年から現在までに150人以上の難民の経験を持つ若者の受け入れを実現してきました。学生が日本で自立して生活を築いていけるよう 、 来 日 前 か ら 受 け 入 れ 教 育機関の卒業まで、一貫した支援を行っています。
来日時オリエンテーション
定期面談
リユニオン
広がる支援の輪 日本社会にも
日本の中での難民・避難民への関心が高まる中、連携する教育機関は18 大学、23 の日本語学校に拡大しました。また、企業との連携も強化し、就職活動に向けた支援も拡充しています。
母国と日本で様々な経験をし、一定の日本語力を身につけた学生は「人財」としてのポテンシャルを有しています。学生が就活に関するセミナーや日本語講座に参加し、企業とも面会をする「就活フェア」には、インターンや職員採用に関心を持つ企業・団体も10社が集まりました。今後、困難を乗り越え、日本で教育をうけ成長した学生たちが社会で活躍していくことが期待されます。
難民の未来への道を広げていくために
2024年度の国外からの学生募集に対し、シリア、アフガニスタン、ウクライナの3か国合計で1,000人を超える応募がありました。書類と面接による選考をし、アフガニスタン、シリア、ウクライナの3カ国から22名の学生を新たに日本に受け入れました。
*2024年度の受け入れについてはこちらをご覧ください。
残念ながら不採用となった学生の中にも、アフガニスタンで女性が受けられない高等教育の機会を求めて独学で日本語を学ぶ方、日本で技術を学び内戦終結後に母国に貢献しようとする方など、意欲の高い候補者が多く集まっています。
日本で未来を切り拓こうとする若者への機会を広げるには、より多くの方のご支援が必要です。皆様のご支援で、100万円※が集まれば、1名の若者が日本にきて、生活を立ち上げ、教育をうけ、自立していく道を支えることができます。(※渡航費、初期の生活支援金、サポート含む)
難民の状況に置かれた若者が日本で未来への道を切り拓けるよう、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
*パスウェイズ・ジャパンは、2024年10月1日に内閣府から、公益財団として認定されました。これにより、皆さまからのご寄附は、税制上の優遇措置(寄付金控除)の対象となります。詳しくはこちらをご覧ください。
(寄附金控除は、10月15日頃に公益財団法人としての登記が完了してから、適用となります。この機会にご寄付をご検討の方は、10月16日以降のご送金をご検討ください。)
団体概要
団体名 公益財団法人パスウェイズ・ジャパン(Pathways Japan PJ)
設立 2021年7月7日
所在地 101-0052 東京都千代田区神田小川町1-8-3 The Office神田501号室