世界で増え続ける難民・避難民。一方、最近日本でも外国人の方を差別・排除しようとする動きも見られるようになりました。
パスウェイズ・ジャパンでは、教育を通じて難民・避難民の若者に新しい道筋を日本でつくる取り組みを行なっています。新しい難民・避難民の受け入れの取り組みと、日本で活躍する難民・避難民の若者をより多くの方に知っていただけるよう、活動説明会を開催しています。
当日は、まず、代表理事の折居から、教育を通じた受け入れとパスウェイズ・ジャパンの受け入れの活動について紹介しました。

その後、プログラムの卒業生(1期生)のシリア出身のサイードさんが登壇しました。サイードさんは、シリア内戦により2013年にトルコに逃れ、その後パスウェイズ・ジャパンのプログラムに応募し2017年に来日しました。日本語学校卒業後、大学に進学、現在はIT企業で働いています。イベントでは、来日前から今に至るまでの経験を日本語で話してくれました。
サイードさんの話

Q 来日前の生活とパスウェイズ・ジャパンのプログラムに応募した理由を教えてください。
2013年にシリアの大学で電子工学を勉強していましたが、戦争の影響で、卒業ができなくて、トルコに行きました。トルコには4年間住んでいましたが、その時は正式なステータス、難民のステータスも自分の証明もなく、いい仕事をするチャンスがあまりなくて、勉強を続けることも全然ありませんでした。だから、ずっと勉強をしたかったのですが、チャンスはありませんでした。自分と家族を助けるためには、色々な肉体労働の仕事をしていました。でも、先ほど話したようにずっと勉強を続けたかったから、ずっとチャンスを探していました。パスウェイズ・ジャパンのプログラムを見つけて、日本に行って勉強を続けられればいいと応募しました。
Q来日直後の生活、日本語学校での生活で、特に大変だったことは何ですか。
日本に来て一番大変なのはもちろん日本語です。コミュニケーションと日本語の能力と。でも日本語学校に入って少しずつ生活に慣れていきました。その後、アルバイトをしなくてはならなかったので、アルバイトをして、日本語の勉強も続けていて、自分のために色々なテスト、大学のテストのために、英語のテストやJLPT、日本語能力のテストがあったのですが、全然時間がありませんでした。今もよく覚えているのは、あの時のアルバイトは冷凍庫の倉庫での仕事で、魚を掃除したり分けたりする仕事でしたが、冷凍庫で作業服を来て働いていて、8時間、2時から10時まで仕事をしながら、ずっと携帯電話のイヤホンをつけながら大学入試のための色々な本を聞きました。オーディオブックで日本の歴史や経済について聞きました。だからあの時、時間がなかったのは大変でした。
Q 進路の決め方とそれに向けてどう準備をしたか教えてください。
日本に来た目的は勉強を続けることだったので、日本で大学に進学したかったです。日本語学校で勉強している時は日本語学校の先生たちやパスウェイズ・ジャパンの人たちが助けてくれて、また自分で大学を探していて、でも大変なのは、先ほど話したように色々なテストを準備することです。自分のために自分の時間を作らなくてはいけないのがすごく大変でした。でも頑張っていて、今もすごく感謝していますけど、今も覚えているのは、8時や9時まで、日本語の先生が助けてくれて準備しました。
Q 大学生活はどうでしたか。
大学生活はちょうどコロナで、1年目は対面でしたけど、残りの3年間はずっとオンラインでした。大学の生活という感じはあまりなかったです。サークルにも入れなかったですし、実は友達も多く作れませんでした。でも時間はあったから、ITコースとかを自習しました。大学のプログラムは英語でしたから、日本語を忘れないように日本語を勉強して、アラビア語を勉強したい日本人、学生たちとLanguage Exchange(語学の相互教授)して、日本語のJLPT日本語能力試験を受けてN2のレベルをとりました。就職活動のためにインターンシップもやっていました。
Q 就活に向けて、志望先の業界や企業の決め方、 特に大変だったことを教えてください。
就職活動は本当に大変でした。なぜならば、日本での新卒の就活システムがとても厳しくてルールがありました。最初はいきたい会社があったわけではなく、すごく心配したのは、日本で仕事を続けたいと思っていて、特に(志望企業などは)ありませんでした。最初は、IT企業の大きな企業に応募したかったから、採用のウェブサイトや、大学のキャリアセンターで色々な情報をもらって、イベントに参加したりして、コロナでしたから結構オンラインでした。オンラインのイベントに参加して、大変でしたのは、志望している企業の説明会に参加したり、会社のSPIテスト、性格テスト、IQテスト、すごく長いエントリーシートを記入したり、またOKもらったら、面接の準備もしなくてはいけなかったから結構大変でした。
Q 日本の企業で働いての感想を教えてください。
実はあまり話すことはなくて、皆んなとても優しくて親切で、自分のアイディアを話したり、新しいことにチャレンジするチャンスも多くて、また会社の皆んなはとてもオープンマインドで、だから自由に色々なことをやらせてくれます。これだけです。とても楽しいです。毎日、良い経験をしています。
Q 最近、仕事でトルコに行ったと聞きましたが、その経験も教えてください。
私はアラビア語が話せて、トルコに住んでいてトルコ語も話せるようになって、今の仕事でトルコから色々なデータが必要でした。私がいくつかの言語を話せるから、エジプトとトルコに出張に行くことができました。なぜならば、今までの自分の経験を全部使っていて、今の仕事でチャンスがありました。
Q 今後の目標は何ですか。
正直にいうとはっきりしていないです。今のところは、自分のキャリアアップを頑張って、もちろん日本での生活を続けたいと思っています。
また、もちろん、今の話を考えると、自分の人生は大きく変わりました。これは全部パスウェイズ・ジャパンのようなプログラムのおかげだから、私もできるだけ少しでも誰かの人生に影響できるなら協力したいと思います。

【質疑応答】
学んだ日本語を使って、来日し大きく変わった自分の人生を話してくれたサイードさん。参加者からも、様々な質問が寄せられました。
Q 就活での書類選考や面接での準備、アピールしたことを教えてください。後輩にはどんなアドバイスをしますか。
後輩へのアドバイスは、早めに準備を始めることです。面接で経験を聞かれたら、皆んな若くて、仕事の経験ではなく自分の人生、生活でどんなコミュニケーションをするか、どんなことに興味があるか、例えばITに関しては好きで、自習してこのプロジェクトを作ったとか、サークルに入って周りの人とコミュニケーションできた、とか、大事なことは経験を作ることです。インターンシップを受けたり、ITでも何でも自習したり、サークルに入ったり、何でも大事だと思います。私はさっき言った通り、Language Exchangeをしてて、ITで自分のプロジェクトを作っていて、またインターンシップも入っていて、半年ぐらいやっていたから、こういうことしました、こういうコミュニケーションできた、こういうアイディアを出していてこういうことできました、ということをアピールしていました。
Q 日本人と働く中で気をつけること、大変だったことを教えてください。
時間を守ることです。特別な話はなくて、今の会社では、ちょっと遅れたら、皆んな優しくて「全然大丈夫です」と。だから会社によって、人によってだと思います。
気をつけること、相談などのホウレンソウ、それはすごく大事だと思います。これをしないとちょっと心配になります。多分これだけで、後はいろいろな会社があり、今の会社は皆んな優しくて、結構自由にやらせてくれます。だから、特別なことはないと思います。
Q 日本語は、日本語学校以外でどのように学ばれていましたか。
私は残念ながらアニメはあまり見ていないです。ドラマも、漫画も全然見ていないです。全部教科書からです。10年くらい(アニメなどを)見ている同僚から見ると全然完璧ではないと思います。教科書以外でも、先生たちが授業外で時間を作ってくれました。アルバイトでもよくコミュニケーションできませんでした。今はもちろんフルタイムの仕事をしていますけど、アルバイトとしては全然なかったです。アルバイトして誰とも話していなかったです。ほとんど勉強したのは教科書からです。
Q 日本語以外で戸惑ったことはありますか。
日本に来たら、皆すごくルールを守ります。だから私は態度が、こういうことをすればいいか、皆周りはどう見ているでしょうか、外国人の方だから。正しい、悪いアクションをどうすればいいかと心配していました。こういう言い方をして大丈夫か、など分からなかったです。今でも(迷う時は)あります。
Q 日本語学校から大学に入って、難しかったこと、事前に準備をしておいた方がよかったことを教えてください。
多分日本語の勉強です。結構頑張っていたけど、見ている通り、もっと話せるはずだと思います。日本語学校の時も、教科書だけでなく、できるだけ友達を作る、コミュニケーションをとるのは大事だと思います。大学のプログラムは英語でした。また今も時々英語を使いますが、生活、仕事のため、また将来のため、キャリアでも日本語はすごく大事だと思うので、大事にしてください、と後輩にいいます。
Q 最後に参加者のメッセージをお願いします。
特にないですが、さっき話したように、トルコに住んでいた時と、今の人生は全然違い、大きく変わりました。だから、できるだけ私のような、今の私ではなく、若いサイードのような学生たちをできるだけサポートしてください。もちろんお金の話ではなくて、笑顔。笑顔があれば、さっき言った通り、日本に来た時は、何が正しいアクションか心配しましたが、皆さん優しくて、本当に感謝しています。

今回は、学生、企業に務める方、日本語学校や大学の方など、様々な方に参加いただきました。パスウェイズ・ジャパンの活動紹介とサイードさんのお話しをうけ、下記のような感想が寄せられました。
参加した方からの感想
・講演会などでの難民の方の話というと大変な話しか聞いたことがなかったですが、生き生き自分の人生を生きている姿を目にして、人間として共に支え合おうという姿勢で難民の背景を持つ方と一緒に生活していくことがとても大切だと改めて感じました。ヘイトが蔓延する昨今ですが、ものすごく努力され、このような優秀な方と共に働けること、同じコミュニティで生活できることは素晴らしいことだと明るい気持ちになりました。
・民間主導での受け入れが求められていて、それを教育や就労を通じて行っているということ、またターゲット層が国外にいる人であり、日本にすでに来ることができる留学生だけでなく、来日の段階から支援•サポートできることが魅力だと感じました。また、受け入れた後の地域における取り組みや、受け入れるための制度構築についてさらに詳しく話を伺いたいと感じました。
・日本語がとても上手で、勉強熱心なことがよく伝わってきました。もし時間が許せば、家族との時間などプライベートなお話も伺ってみたかったです。
・日本語学校に通っていた頃の話。冷凍庫の中で誰とも喋らずオーディオブックを聴いて勉強していたそうですが、周りに様々な支え手がいたとしても、やはり孤独との戦いでもあっただろうと想像しました。来日前もハードな環境に身を置いていたと思いますが、その精神力と前向きな姿勢、何より学びたいという思いの強さに感銘を受けました。
・日本語でのコミュニケーションの際に失礼のない表現を常に意識されていたご経験や、現在のお仕事の中で専門分野の知識だけでなく多言語能力を生かす場面があるというお話を伺い、日本社会の中で良好な人間関係を築く努力をされつつも、単に日本に同化するのではなく、ご自身の強みを生かして個性を発揮しながら活躍されているお姿が印象的でした。
パスウェイズ・ジャパンでは、今後も、イベント等の開催を通じて、難民・避難民の若者の姿や教育を通じた受け入れの取り組みについて紹介していきます。ぜひお気軽にご参加ください。
次回の活動説明会
日時:1月下旬
形式:オンライン
ゲスト:ウクライナ出身の方
*日程は決まり次第お知らせいたします。

