世界難民の日:故郷を追われた人に日本で新しい道を

6月20日は世界難民の日です。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した「グローバル・トレンズ・レポート2023」によると、2024年5月時点で紛争や迫害、暴力、人権侵害により避難を余儀なくされた人々は1億2000万人に達し、2022年度から600万人が増加、12年連続で過去最多を更新しています。その数はついに日本の総人口に匹敵するほどになりました。
毎年新たに起こる紛争等で避難を余儀なくされる人々は年々増え続け、その多くが特に低中所得国で長期間にわたって不安定な生活を強いられ、これら諸国の経済・社会発展上も課題となっています。このような現状では、最初の受け入れ国での社会統合、各国政府の国際協力で行われる「第三国定住」といった取り組みだけではなく、より多角的で、イノベーションに富んだ、新たなアプローチが求められています。
その中で、パスウェイズ・ジャパンは難民や避難民を教育を通じて日本に受け入れる「新しい道筋」(=パスウェイズ)を作ることに取り組んできました。これにより、難民となった若者たちに「未来への道筋」を提供するとともに、日本社会にとっても新たな「人財」との出会いの機会を創出しています。

2017年の事業開始からこれまで、シリア、アフガニスタン、ウクライナから、合計177名の教育機関での受け入れを実現してきました。この3カ国は、難民の出身国上位5カ国のうちの3カ国となり、毎年、1000名を超える意欲の多い若者が当財団のプログラムに応募しています。

(2024年4月に来日したシリア、アフガニスタン、ウクライナの若者)

母国での紛争や政治的混乱により、夢や希望を失った若者たちは、日本で学ぶ機会を得ることで、新たな未来への道を切り拓くことができます。来日後は日本語を学びながら、アルバイトで生活を支え、日本社会に根を張っていきます。
パスウェイズ・ジャパンのプログラムを卒業する際には、新たな土地・日本でキャリアを見つけ、進学や就職を果たしています。これまでに71名がプログラムを卒業・修了し、その進路は以下の通りです。すでに卒業生の約3割が就職しており、大学・大学院・専門学校に在籍している残りの学生も、今後日本で就職し、社会に貢献していくことが期待されています。

卒業生の進路(合計71名、2024年3月時点)
就業:23名
就職活動:7名
大学院博士課程:1名
大学院修士課程:9名
大学学部:13名
大学非正規課程(研究生等):4名
専門学校:5名
大学・専門学校進学準備:7名
その他:1名
第三国に移住:4名

以上の卒業生の中から、以下、日本語学校で学んだ後に、就職を果たした2名の若者を紹介します。この2名は、パスウェイズ・ジャパンが先日学生向けに行った「就活説明会」で、後輩の学生に自分の経験を共有し、アドバイスを送ってくれました。


シリア出身・タレクさん

2011年に始まったシリア危機の中で、トルコに逃れました。トルコの大学で建築を学びましたが、難民として不安定な状況で将来の見通しが見えず、パスウェイズ・ジャパンのプログラムに応募し、2022年に来日しました。京都の日本語学校で2年間学び、来日時にはN4レベルだった日本語力をN2レベルに伸長させました。今年4月から、自身の建築の専門性を活かし、設計事務所で働いています。

「日本での就活では、テスト受験があって慣れないうちはプレッシャーを感じたり、自分の海外での経験を理解してもらうことが難しかったりと、様々な困難がありました。言語や文化の違いによって考え方や仕事様式も変わるため、専門分野に関連する仕事を得るために、全て日本語でコミュニケーションをとるよう努めました。周囲から『建築の仕事は無理だ』と言われることもありましたが、『本当に建築家になりたいのか』と自問自答しながら、建築家を目指す思いを強めました。その結果、現在は日本人の同僚に囲まれながら、自分の専門性を活かして働いています。」

ウクライナ出身・ヴィカさん

2022年のウクライナ危機により、パスウェイズ・ジャパンのプログラムに応募し、日本語学校に入学しました。日本語力は、来日時にN3レベルでしたが、1年強でN2を取得、N1レベルの学習をするまでに伸長させ、日本での就活に挑みました。現在は、テレビ局で、日本に関するニュースやテレビ局のオリジナルコンテンツを海外に配信する仕事に携わっています。

「日本での就職活動は、選考プロセスが長く、エントリーシートや課題の提出、テスト受験など多くの準備が必要で大変でした。面接を重ねるうちに、自分の熱意やモチベーション、企業への貢献について具体的に話せるようになりました。テレビ局で働くことは子どもの頃からの夢で、経験は少なかったものの、映像や画像の編集に対する強い熱意をアピールして採用されました。現在は、自分の語学力を活かし、英語に翻訳された日本に関するニュースやテレビ局のオリジナルコンテンツを海外のテレビ局や通信社向けに配信するため、映像・画像の編集をしています。」


このように難民となる状況を経験し、様々な困難を乗り越えて日本で未来を拓こうとする若者達は、日本社会で「人財」として貢献できる可能性を持っています。パスウェイズ・ジャパンでは、就活支援として、企業と難民・避難民の学生の接点を作るべく「企業交流会」「就活セミナー」などを開催するほか、企業のインターンシップや採用に関する情報提供などを行なっています。これらの取り組みを通じて、難民・避難民の若者たちが日本社会でその能力を発揮し、貢献できる機会を今後も増やしていく予定です。

パスウェイズ・ジャパンが取り組む「教育を通じた受け入れ」は、民間主導の新しい受け入れ形態である「補完的パスウェイズ」の一つとして、世界中で推進されています。昨年12月に日本政府が議長国を務めた「グローバル難民フォーラム」に続き、今年6月に開催された第三国定住・パスウェイズに関する国際会議「CRCP」でも、受け入れ国政府、NGO、難民の代表、UNHCRなどが集まり、議論が重ねられました。「補完的パスウェイズ」には、留学のほか、就労、家族統合、プライベートスポンサーシップなどが含まれ、世界中でさまざまな新しい取り組みが行われています。パスウェイズ・ジャパンの取り組みも、こうした新しいアプローチの一例として、CRCPで紹介されました。

(2024年6月にスイス・ジュネーブで開催されたCRCPで発表する様子)

パスウェイズ・ジャパンでは、この「世界難民の日」に、故郷を追われた人々の一人一人の人生に思いを馳せながら、今後もパートナーの教育機関や企業・団体、支援者の皆様、そして社会各層の様々な組織と協力して、難民の状況となった人々が日本で未来を切り拓いて行けるよう、決意を新たにします。そして、来日前から就業まで一貫した支援を行い自立への道を拓く取り組みを、非英語圏での先進的なモデルとして示すことで、グローバルな難民の課題の解決に貢献できるよう取り組んでいきます。