【留学生Interview】
「夢を追いかけていいんだよ」と女の子たちに伝えたい
-目指すのは平和構築への貢献

シリア出身のスザンは、Pathways Japanの二期生として2018年に来日した。2011年3月の東日本大震災直後に勃発したシリア内戦で、自宅が焼かれ、通っていた大学が爆撃された。隣国トルコに逃れ、内戦で亡くなった父に代わり一家を支えるため、仕事を転々とした。だが、勉強を続けたいという強い思いを手放すことはしなかった。

日本に留学することは長年の夢だった。その機会を手に入れるべく、いつも探していた。他国で学ぶという選択肢もあったが、それを選ぼうと思ったことはなかったという。避難先のトルコで友人から日本留学のプログラムについて聞き、すぐに応募した。来日後、まずは日本語学校に2年間在籍し、現在は、都内の大学院で平和学を学ぶ。

好きな言葉は「あきらめたら、試合終了」

10代の頃から日本のアニメや漫画が好きだ。夏目漱石、太宰治などの文学作品にも造詣が深い。好きな言葉は、漫画『スラムダンク』に出てくるセリフ「あきらめたら、そこで試合終了」だという。都会での生活は楽ではないが、将来のビジョンは揺らがない。

「私は学ぶために命をかけて逃れてきました。将来は難民一人一人が夢を叶え、望む人生を送れるような手助けをしたい。一般的にシリアでは女性が一人で出歩くことすら難しい。家庭の規範、住んでいる地域などによっても違いますが、女性が手にできる自由は男性と同じではありません。でも、女の子たちに伝えたい。自分の夢を追いかけていいんだよって。もっと勉強して、多くの人に思いを伝えられる力を持てるようになりたいんです」

悲しみに沈まず、次世代を見据える

弱音を吐かないスザンだが、狭いアパートで一人涙した日々もあったという。特に、アルバイト探しは苦労した。コンビニ、寿司レストラン、古本屋、アパレルなど、面接で断られた数は50件にものぼる。シリア出身だと伝えると、「ごめんなさい」と言われた。「日本語がうまくないから」、「優秀すぎるから」とも言われた。シリアという国籍は、家探しでもハードルとなった。

それでも、彼女は言う。 「惨めになっている暇はないんです。調子が悪くてもいい。孤独や悲しみを感じてもいい。でも、いつかは変わるってことを忘れてはいけない。弱気になっても、最後には世界を変えるためにベストを尽くす。若い世代のために少しでも世の中が良くなるように、紛争解決に関わりたい。それが、私の目指すことです。シリアで起きた恐ろしいことが二度と他の国で起きて欲しくないんです」

長時間のアルバイトに疲れ果てて帰宅したあとに撮影した。月の撮影は毎月のルーティン。思い出の写真は自宅の爆撃で全て失った(スザン撮影)

ある日突然、すべてを変えたシリア内戦

母国シリアでの経験を日本で話すことは少ない。スザンが住んでいた地域で戦闘が激化したのは2013年。さまざまな勢力が入り乱れて衝突していた。通っていた大学が爆撃されたのは、中間試験の初日だった。多くの友人が負傷し、命を落とした。彼女も大学に行くつもりだったが、用事を思い出し、その日は足を運ばなかった。それから間もなくして、自宅が爆撃され、スザン一家は町からの脱出を迫られた。

「避難の道のりは恐怖でした。町がいくつもの勢力で分断され、通りを挟んで戦闘している状態でした。町を脱出するには、その間を進むしかありません。途中、『死の道』と呼ばれる通りを抜けた経験は、人生で一番恐ろしいものでした。いつもなら20分の道のりが、15時間かかりました。至る所にいるスナイパーの目をかいくぐり、いくつもの検問所を通り抜けました」

「平和」を感じた長崎への旅

日本各地の歴史ある場所を訪ねるのが好きなスザン。中でも、長崎への旅の思い出は特別だ。 「長崎では、『平和』とか『生き延びる』ということを感じました。悲惨な出来事を経験し、なんとか前に進もうとしてきたれけれど、心で感じた痛みを忘れていない。夜は暗くても、鳥のさえずりと共に日はのぼる。暗闇で見えなくても、希望は常にある。そんなことを感じる町でした」

違いはあっていい。大事なのは互いにリスペクトしあうこと

難民受け入れに厳しい日本社会だが、スザンはあえてこの社会で学ぶことを選んだ。他の国とは違った経験ができる、違う視点が学べる、違う考えに出会えるからだ。日本社会に伝えたいことがある。「違いはあっていい。皆それぞれに想いがあり、この世界で生き延びていきたい。だから、大事なのは互いをリスペクトしあうこと」

内戦はスザンから大切な人や時間を奪った。だが、夢を追いかけ、生き延びることの尊さを知っている彼女から、希望を奪うことはできなかった。まっすぐに将来を見据え、ぶれない信念を持って語るスザンの言葉は、シンプルだが聞く者の心にずしりと響く。彼女は将来どう自身の言葉を次の世代に届けていくのだろうか。きっと、そこには私たちの想像を超える地平が開けているに違いない。

美しいものを撮影するには時間の忍耐が必要だと言う。何時間でもカメラを構えていられるほどの写真好きだ(スザン撮影)

取材・文/田中 志穂